パートタイム労働法の改正
就業形態の多様化が進む中、パートタイム労働者(以下パート労働者という)の重要性が高まっています。パート労働者について、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図り、その有する能力をより一層有効に発揮できる雇用環境を整備するため、パートタイム労働法(「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)が大幅に改正され、平成20年4月1日に施行されます。
今回は、この法改正の背景・概要・留意事項について解説いたします。
I. 法改正の背景
少子高齢社会の進展・労働力人口の減少・企業競争の激化等の環境変化を背景に、雇用形態や働き方の多様化が進む中、国内のパート労働者の数は、平成18年には1,200万人を超え非農林系雇用者総数の22%超を占めるようになっています。このような環境下、業務内容や責任、キャリア管理が通常の労働者(以下正社員という)と同様であるにもかかわらず、賃金等待遇面で大きな格差のあるパート労働者が存在するなど、必ずしもその働きに見合ったものとなっていない状況が指摘されています。
そこでパート労働者について、正社員と均衡のとれた待遇の確保等を図り、その有する能力をより一層有効に発揮することが出来る雇用環境を整備するため、パートタイム労働法が大幅に改正され、平成20年4月1日に施行されることになりました。
ページトップに戻る
II. 法改正の概要
1. 労働条件の文書交付等による明示(義務化)と待遇についての説明(義務化)
- (1)事業主は、パート労働者を雇い入れたときは、「契約期間」「勤務場所・業務内容」「始業・終業時刻、時間外労働の有無、休日、休暇」「賃金」等に加え、「昇給の有無」、「退職手当の有無」、「賞与の有無」を文書の交付等により速やかに明示しなければなりません。《義務化》(違反の場合は、10万円以下の過料)
- (2)事業主は、(1)の太字の3つの事項以外についても、文書の交付等により明示するように努める必要があります。《努力義務》
- (3)事業主は、その雇用するパート労働者から求めがあったときは、その待遇を決定するに当たって考慮した事項を説明しなければなりません。《義務化》
ページトップに戻る
2. 均等のとれた待遇の確保の推進(働き・貢献に見合った公正な待遇の決定ルールの整備)
パート労働者は、繁忙期に一時的に働く者から正社員と同様の業務に従事し長期間働く者までさまざまです。このためパートタイム労働法の改正では、パート労働者の待遇を正社員との働き方の違いに応じて均衡を図るための措置を講じるよう規定しています。具体的には、[1]職務 [2]人材活用の仕組み [3]契約期間の3つの要件が正社員と同じかどうかにより、賃金・教育訓練・福利厚生などの待遇の取扱いをそれぞれ規定しています。(詳細は、厚生労働省ホームページご参照)
ページトップに戻る
3. 正社員への転換の推進
正社員への転換を推進するための措置(以下の措置またはこれらに準じた措置)を講じることが義務化されます。
【講じる措置の例】
- (1)社員を募集する場合、その募集内容を既に雇っているパート労働者にも周知
- (2)正社員のポストを社内公募する場合、既に雇っているパート労働者にも応募する機会を付与
- (3)パート労働者が正社員へ転換するための転換制度の導入
ページトップに戻る
4. 苦情処理・紛争解決に対する援助
- (1)パート労働者から苦情の申し出を受けた時は、事業所内で自主的解決を図ることが努力義務化されます。
- (2)紛争解決援助の仕組みとして、都道府県労働局長による助言・指導・勧告、均衡待遇調停会議による調停が制度化されます。
ページトップに戻る
III. 留意事項(Q&A)
法改正の背景、概要は前記に述べた通りですが、企業が主に留意すべき事項についてQ&Aで解説します。
- Q1.パートタイム労働法でいうパート労働者の範囲はどのようになっていますか
- A1.パートタイム労働法でいうパート労働者とは、「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される正社員の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」とされています(短縮時間の程度までは示されていません)。例えば、呼び名が「パートタイマー」「契約社員」「嘱託社員」「臨時社員」「準社員」「アルバイト」などと異なっていても、実態がこの条件に当てはまる労働者は「パート労働者」としてパートタイム労働法の適用の対象になります。
なお、フルタイムで働く者で「パート」に類する名称で呼ばれる者(いわゆるフルタイムパート)は、「正社員と同視すべきパート労働者」には該当しませんが、今回の法改正の趣旨を踏まえた雇用管理が望まれます。
ページトップに戻る
- Q2.パートタイム労働法の改正による賃金等の見直しの方法はどのようにしますか
- A2.パート労働者の態様が4パターンに区分されます。

企業としては、先ずパターン(1)の「正社員と同視すべきパート労働者」と認定される可能性のあるグレーゾーンのパート労働者に対して以下の3点について正社員との違いを明確化する必要があります。
- [1]職務内容(業務の内容および責任の程度)
- [2]人材活用の仕組み(人事異動の有無および範囲が全雇用期間を通じて同じかどうか)
- [3]契約期間(契約期間が無期あるいは反復契約により実質的に無期契約かどうか)
次に、「正社員と同視すべきパート労働者」として最終的に企業が認定した者については、賃金の決定・教育訓練の実施・福利厚生施設の利用について正社員との差別的取扱いが禁止される為それぞれについての見直しが必要です。
一方、「正社員と同視すべきパート労働者」以外の者であっても、賃金の決定・教育訓練の実施・福利厚生施設の利用について実施義務、配慮義務、努力義務などが必要な場合があります。
福利厚生については、例えばカフェテリアプランを導入している企業であれば、利用額の上限を所定労働時間の長さに比例させることも一案と考えられます。
ページトップに戻る
- Q3.賃金にかかる均衡待遇について、もう少し詳しい内容を教えてください
- A3.「正社員と職務内容と人材活用の仕組みが同じパート労働者」(前記パターン(2))については、その一定期間について賃金を正社員と同一の方法により決定する努力義務が課せられています。(*一定期間とは、雇用関係の全期間ではなく、ごく短期的な期間でもなく、一定の合理的な相当期間としています。)例えば、賃金に関しては、賃金水準を所定労働時間の長さに比例させることが考えられます。例えば、正社員の所定労働時間の4分の3のパート労働者の場合、正社員の給与が24万円であれば、パート労働者の給与を18万円(正社員の4分の3)とするなどです。
また、「正社員と職務内容が同じで人材活用の仕組みが異なるパート労働者」(前記パターン(3))と「正社員と職務内容も人材活用の仕組みも異なるパート労働者」(前記パターン(4))は、共に職務の内容・職務の成果・意欲・能力・経験等を勘案して賃金を決定するよう努力義務を課しています。
以上にいう賃金は、基本給、賞与、職務の内容に密接に関連する手当(役付手当等)に限定され、職務の内容に密接に関連する手当以外の手当(住宅手当、通勤手当等)は含まれません。しかし、「事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針」において、このような職務の内容に密接に関連する手当以外の手当についても、その就業の実態・正社員との均衡等を考慮するよう努力義務を課していますので、留意が必要です。
ページトップに戻る
- Q4.パート労働者の就業規則はどのように見直せばよいですか
- A4.労働基準法で、常時10人以上の労働者を使用する事業主は就業規則の作成が義務付けられています。常時10人とは例えば正社員5人、パート労働者5人の場合も該当し、この場合には全員に適用可能な就業規則の作成が必要です。
従って、企業は、「正社員就業規則」と「パート労働者就業規則」を区分して作成するか、「正社員就業規則」にパート労働者の準用規定(全部又は一部)を設けるかのいずれかを選択することになります。しかし、正社員とパート労働者の区分を明確化することが企業のリスク管理にもつながるため、それぞれの就業規則を区分して作成することが望ましいといえるでしょう。なお、就業規則の作成・変更の際には、その事業所において雇用するパート労働者の過半数を代表すると認められるものの意見を聴くように努める必要があります。
ページトップに戻る
- Q5.パート労働者の労働契約書または労働条件通知書はどのように見直せばよいですか
- A5.事業主は、パート労働者を雇い入れたときは、「契約期間」「勤務場所・業務内容」「始業時刻・終業時刻」等に加え、[1]昇給の有無 [2]退職手当の有無 [3]賞与の有無の3つを文書の交付等により速やかに明示しなければならないとされましたので、労働契約書または労働条件通知書に上記[1][2][3]を記載するか就業規則に規定し明示するかのいずれかを選択する必要があります。実務としては、労働契約書または労働条件通知書に記載する方が確実でしょう。なお、メールなどで通知する場合は、メールを返信してもらうなどの形で受信の確認をしておくと、後日のトラブル防止に役立ちます。
ページトップに戻る
- Q6.パートタイム労働法の改正に関連した助成金制度があるのでしょうか
- A6.(1)「パート労働者の能力・職務に応じた処遇制度の導入」、(2)「正社員への転換制度の導入」、(3)「教育訓練制度の導入」等の制度を平成19年7月1日以降に新たに設けてから(就業規則または労働協約に規定することが必要)2年以内に対象者が出た場合、所定の審査を経て「パートタイマー均衡待遇推進助成金」(「中小企業短時間労働者雇用管理改善等助成金」の後継)が支給される場合があります。
*詳細は、以下のホームページをご参照下さい。
(相談部 市本進治)
[TAX AND LAW情報(2008年2月13日発行)より転載]
内容は執筆当時のままとなっておりますのでご了承ください。
- *本ホームページの情報は、法律、会計、税務等の一般的なご説明をしたものです。個別具体的な法律上、会計上、税務上等の判断や対策などについては専門家(弁護士、公認会計士、税理士等)にご相談ください。