専門的知識、技術、ノウハウを持った出資者自らも経営に参加し、自由な内部組織の下、迅速な意思決定により事業を展開したいというベンチャー事業者等からのニーズの高まりを受け、会社法では、人的会社(社員と会社との関係や社員相互の関係が密接な会社)の見直しと整備が行なわれました。
その結果、現行の合名会社、合資会社でリスクの伴う事業を展開する際のネックである事業の失敗による損失に対する無限責任を回避すべく、「有限責任制」(社員全員を有限責任)とし、かつ、人的会社の持つ「内部自治原則」(内部ルールは構成員間で自由に決めることができる)を備えた「合同会社」(LLC)が創設されました。会社法では、合名会社、合資会社、合同会社を「持分会社」と規定しています。
有限責任制とは、出資者が出資額までしか事業上の責任を負わないというものです。ベンチャービジネスなどの場合、事業の失敗というリスクを背負うため、無限責任であることが事業推進の大きな妨げとなっています。民法上の組合員と合名会社の社員は全員が、合資会社では無限責任社員が無限責任を負うため、自分以外のパートナーや社員の失敗により発生した債務を弁済する責任を負わなければなりません。有限責任制によりこのリスクを回避することができます。
内部自治原則とは、議決権や配当金の分配といった組織内部のルールを自由に決めることができることをさします。株式会社や特例有限会社の場合、有限責任制の利点はあるものの、配当金は原則保有する株式の数に応じた分配しかできませんので、資金は無くても、専門的知識、技術、ノウハウで事業に貢献できる者に対しては十分なインセンティブを与えることができません。この点、LLCでは出資金額以外の要素を考慮して配当金の分配割合を決めることができます。
また、株式会社の場合、法で定められた株主総会、取締役等の機関の設置が強制されますが、LLCでは、株主総会や取締役等の設置義務は無く、社員間で直接合意することで、より迅速な意思決定を行なうことが可能です。
有限責任事業組合(LLP)とは、有限責任事業組合契約に関する法律(以下「LLP法」という)により創設されたもので、同法に規定する有限責任事業組合契約によって成立する組合のことです。LLP法は会社法に先んじて、平成17年8月1日より施行されています。
LLPの大きな特徴は、LLCの持つ2つの特徴「有限責任制」「内部自治原則」に加えて「構成員(パススルー)課税」が設けられている点です。株式会社やLLCでは、事業体自身の法人に課税、更に収益を配分された株主や出資した社員にも課税されます。これに対してLLPでは、構成員へ直接課税するのみで、二重課税を回避することができます。
LLPは組合であるため法人格はありません。一方、LLCは法人格を有します。したがって、対外的な面で法人格を有した方が有利な場合はLLCが適しています。
LLPの場合、株式会社にするには、LLPを解散しその後株式会社を設立する手続きを経る必要があります。また、他社との合併等の組織再編も認められません。一方、LLCは、株式会社への組織変更が可能です。したがって、事業の拡大とともに株式会社への組織変更や他社との合併が見込まれる場合はLLCが適しています。
LLPは共同事業を営むことを目的としているため、2人以上の出資者が必要です。一方、LLCは、出資者の数に規制はなく、1人でも可能です。
LLPは共同事業を営むことが規定されているため、全ての組合員が業務執行に携わる必要があります。一方、LLCでは、全ての社員が業務執行に携わる必要はありません。
| 株式会社 | 合同会社(LLC) | 有限責任事業組合(LLP) | 民法上の組合 | |
|---|---|---|---|---|
| 根拠法 | 会社法 | 会社法 | 有限責任事業組合契約に関する法律 | 民法 |
| 形態 | 法人 | 法人 | 組合(法人格なし) | 組合(法人格なし) |
| 出資者責任の範囲 | 有限 | 有限 | 有限 | 無限 |
| 内部組織 | 株主総会と取締役は必置。(取締役会、監査役などは任意) | 自由 | 自由 | 自由 |
| 税金 | 法人と出資者両者に課税 | 法人と出資者両者に課税 | 構成員のみに課税 | 構成員のみに課税 |
| 株式会社への組織変更 | - | 可 | 不可 | 不可 |
新技術開発等にあたり、複数の企業がジョンイントベンチャーで事業を行なう際、構成員である当該企業間で直接合意がなされ、意思決定を迅速に行なうことができます。
<株式会社の場合、株主総会や取締役会を通じて意思決定しなければならないため迅速性に欠けます。>
業種の異なる事業者が、それぞれの保有する設備、技術やノウハウを持ち寄り研究開発事業を行う際、事業成果の分配については、保有する株式の数にとらわれずに、技術やノウハウによる貢献も考慮して収益分配のルールを決めることができます。
<株式会社の場合、原則保有する株式の数に応じた分配に限定されてしまいます。>
民間企業と大学による新製品の開発等を目的とした事業を行なう際、主に民間企業が資金や設備を提供、大学は研究成果を提供し、収益の分配については、当該研究成果の貢献度を重視して大学に多めに配分するといった分配ルールを用いることができます。
例えば、プログラマー、Webデザイナー、イラストレーター、カメラマン、コピーライターなどの複数の専門家によるホームページ作成を目的とした事業を行なう際、有限責任の範囲で積極的に個々の能力、技術を発揮して事業に貢献することができます。
<民法上の組合の場合、無限責任であることから、金額の大きい仕事の受注は、リスクを伴うため消極的扱いになってしまいかねません。>
弁護士、税理士、公認会計士、司法書士、社会保険労務士、弁理士等のいわゆる「士業」の中で、それぞれの業法において無限責任とされているものについては、LLP法において「その性質上組合員の責任の限度を出資の価額とすることが適当でない業務」としてLLPの対象から外れました。業法で無限責任の規定のない中小企業診断士、栄養士等については、LLPの対象となります。
特例有限会社とは、「有限会社」という文字を商号中に用いて存続する株式会社をさします。会社法の施行により有限会社法は廃止され、新たに有限会社を設立することはできなくなりますが、現行の有限会社は特例有限会社として存続することもできます。特例有限会社は株式会社であるため会社法の適用を受けますが、現行の有限会社として持っている属性を株式会社の機関、組織運営、管理に反映させようというのが趣旨です。
特例有限会社と株式会社の大きな違いは、役員の任期と決算公告です。特例有限会社では、取締役の改選や公告の義務がありませんので、この点、株式会社と比較して手間・費用が不要となります。
| メリット | デメリット | |
|---|---|---|
| 特例有限会社 |
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| 株式会社 |
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通常、特例有限会社の定款には取締役の任期の定めはないので、株式会社へ移行する場合、取締役の任期を定款で定めるべきです。取締役の任期については10年の範囲内を定款で定めることになります。
| 現行の有限会社 | 特例有限会社 | 株式会社(非大会社かつ非公開会社で委員会設置会社を除く) | |
|---|---|---|---|
| 商号 | 「有限会社」という文字が必要 | 「有限会社」という文字が必要 | 「株式会社」という文字が必要 |
| 取締役の法定任期 | 規定なし | 規定なし | 原則2年 (定款で10年まで伸長可) |
| 必須設置機関 | 社員総会、取締役 | 株主総会、取締役 | 株主総会、取締役 |
| 監査役 | 定款で定めた場合に限り設置できる。(権限は会計監査権限のみに限定) | 定款で定めた場合に限り設置できる。(権限は会計監査権限のみに限定) |
|
| 会計参与 | - | 設置できない。 | 設置できる。 |
| 社員総会、株主総会の特別決議要件 | 総社員の半数以上が出席し、総社員の議決権の4分の3以上の賛成 | 総株主の半数以上が出席し、総株主の議決権の4分の3以上の賛成 | 議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(定款で3分の1以上の割合と定めた場合は、その割合以上)、出席株主の有する議決権の3分の2以上の賛成 |
| 決算公告 | 不要 | 不要 | 必要 |
現行の有限会社は、「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(整備法)における経過措置に基づき、当然に特例有限会社に移行するため、特に講じるべき措置はありません。
会社法施行前に移行する場合と会社法施行後に移行する場合が考えられます。どちらを選ぶかは、それぞれのメリット・デメリットを比較検討した上で決めることとなります。
| メリット | デメリット | |
|---|---|---|
| 会社法施行前に株式会社へ移行 |
|
|
| 会社法施行後に株式会社へ移行 |
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有限会社を株式会社に組織変更するには、社員総会の特別決議を要します。その決議では、株式会社に組織変更すること、変更後の株式会社の定款、資本金、現行商法で定められている必要な役員(取締役3名、監査役1名)等に関する事項を定めます。
有限会社を株式会社に組織変更したときは、本店の所在地では2週間以内、支店の所在地では3週間以内に、有限会社の解散と株式会社の設立登記を同時に行ないます。
特例有限会社は定款を変更して株式会社という文字を用いる商号に変更します。そのためには株主総会の特別決議を要します。
定款変更の特別決議の後、本店の所在地では2週間以内、支店の所在地では3週間以内に、特例有限会社の解散と株式会社の設立登記を同時に行ないます。
(相談部 吉田 覚)
[TAX AND LAW情報(2006年3月28日発行)より転載]
内容は執筆当時のままとなっておりますのでご了承ください。